学生時代に肉を研究し、サラリーマン時代にも肉の研究や新製品の開発に携わっていたのですが、その時行なったバラバラの肉をつなぎ合わせてステーキ肉を作るという仕事(試作)は、坂本さんには材料も作り方も納得が出来ませんでした。
そこで、「ごまかしのきかない本当に美味しいと思えるものを作りたい」と、自らが工房を構え、自分の納得する素材、製法で、「究極のベーコン」を作り上げました。
そこでは、コストや効率なんて考えず、最高の素材を昔ながらの塩を手ですり込んでいくという製法を選びました。これが、手間は掛かりますが、一番美味しくベーコンが仕上がる方法だと言います。
実は、一般に出回っているベーコンのほとんどが、加工用の冷凍肉を使い調味液を肉に注入するという方法もしくは、調味液に肉ごと漬け込むという方法で作られています。
もちろん、その方法でベーコンは出来上がるのですが、「自分が食べたいベーコン」かと言うと、決してそうではありませんでした。そこで坂本さんは、売るためではなく「自分が食べたいベーコン」を作る事にしました。
原料の肉、加工法、すべてにこだわって作ると、この「究極のベーコン」が出来上がりました。
「肉は腐りかけが旨い!」という言葉を耳にした事があるがありませんか?
確かに肉は熟成することによって、肉の中のたんぱく質が旨み成分の素となるアミノ酸に変化するので、肉の赤身部分については熟成させると美味しくなります。ですが肉は赤身だけではありません。
特に、ベーコンの原料となる豚バラ肉については、赤身と同じ位脂身の部分も付いています。
実は、この脂身がこの間違いの元で、脂身については時間が経つほど酸化していってしまいます。つまり、脂の部分に関しては熟成させ過ぎると旨みが減少していってしまいます。
右の写真を見てください。この赤い斑点は、脂が酸化していない新鮮な証拠です!坂本さん曰く、ここを見ると、その肉の鮮度がひと目でわかると言います。
肉を熟成させて作るベーコンですが、すでに時間の経った冷凍の肉を使うのと、新鮮な肉を使うのとでは、ベーコンにした時の肉の旨みが全然違います。
だからこそ、坂本さんは肉に加工されてから48時間以内の、豚肉しか使いません。
なんと、入荷したブロック肉は、ビニールで包んだだけの状態です。
通常、酸化を防ぐ場合真空パックにするのですが、ここではそれをしていません。なぜなら、真空パックにする場合、パックの中の空気を抜くために肉に余計な圧力(ストレス)をかけてしまうからです。
肉の酸化を防ぐ為にパックをするならば、パックをしないで酸化する前に使ってしまいます。
せっかくの新鮮なチルド肉も、全部は使いません。
ベーコン作りには、赤身も脂身もどちらも必要なのですが、重要なのはそのバランスです。赤身部分が多すぎても、酸化を恐れて脂身を削りすぎても、美味しいベーコンには仕上がりません。
また、これから熟成や燻製の過程では、 肉が縮んだり膨らんだりする為、その事も予測しながらカットしていきます。
すると、およそ4kgあった大きなブロック肉も、ベーコン用として残ったのは、わずか半分程になってしまいました。
ですが、この計算された赤身と脂身のバランスがベーコンの味を決める重要なポイントなんです。
肉の熟成は「乾塩法(かんえんほう)」で行ないます。
実は、この方法はベーコン加工の中でも、最も手が掛かり、しかも出来上がりにもムラが出来たりする為、あまり使用されません。
現在、一般的な加工方法というのが、調味液に漬け込む方法になりますが、どうしてもこの製法だと漬け込んだ調味液の中に肉の旨みが流れ出てしまいます。
そこで、わずかな旨みも逃さない為、あえて難しく手間の掛かる「乾塩法」で加工を行なっています。
1枚1枚の肉の形や脂の付き方に合わせて、すり込む塩の加減を変えながら、塩をムラなく塗りこんでいきます。
すると、塩漬け直後から、肉の表面がしっとりしてきました。実は、この水分の中にも旨みがたくさんあります。
この旨みを無駄にしない為、何度もひっくり返しながら、出来る限り旨みを肉に戻します。
一般的な、調味液に漬け込む製法なら5時間程度で熟成させられるベーコンも、この方法だと14日の熟成期間を要します。
もちろん、ただ14日間寝かせておくわけではなく、熟成期間も仕上がりが均一になるように、重ね方や向きを変えて、満遍なく塩がまわるように漬け込んでいきます。
じっくりと熟成されたベーコンを、桜のチップで燻製させます。燻製中に気にするポイントはお肉はもちろんですが、実は燻しているチップの状態も重要なんです。
ベーコンは「香り」もとても重要!桜チップが焦げすぎてしまうと、せっかくの燻製の良い香りが台無しになってしまうんです。その為、30分毎にチップの蒸らし具合を確認します。完成前の、この最後のひと手間が洗練された芳醇な香りのベーコンに仕上げます。
ベーコンの製造に関わる全てを論理的に考え、美味しさを研究したベーコン。
このベーコン作りの工程にはすべて理由があります。
ひとくち食べるだけで、肉のもつ本来の美味しさを感じる事が出来る、初めてのベーコンです。。
ベーコンの断面を見て頂くと、余分な脂身がない事がわかると思います。
仕込みの段階で、この赤身と脂身のバランスになるように考え尽くされているんです。
しかも、外から調味液で旨みを入れたわけではなく、肉の持っている旨みを引き出して熟成させているので、ベーコン自体がとても引き締まっています。
坂本さんが、このベーコンが一番美味しいのは、「厚さ5mm」だと教えてくれました。
カリッと焼き上げて楽しむベーコンですが、厚さがちょうど5mmだと、外側がカリッとして、中がしっとりした状態になるんです。
肉の旨み、溢れる脂、食感、香り…、この全てを感じてお楽しみ下さい。
火を通すと、溢れだすさらりとした脂。このベーコンを焼く時に、油は必要ありません!
通常、脂は少し粘りがあるのですが、このベーコンの脂はさらりとしているんです。
ベーコンを包み込むベーコンの脂は、脂とは思えないほど口どけが良く、しかも甘いんです。まるで、上質なオリーブオイルのようにさらりとした味わいを楽しめます。
パチパチとベーコンが焼き上がるにつれて、部屋中がベーコンの香りに包まれます。
この香りだけでも、思わず笑みがこぼれてしまいそうです。
丁寧に燻しているからこそ、焼き上がりに良い香りを漂わす事が出来るんです。
このベーコンに余計な味付けはいりません。
しっかりと熟成期間に、肉の旨みを引き出しているので、そのまま焼くだけで十分旨みがあります。
熟成の時と同じように、外から旨みを加えるわけではなく、肉そのものを美味しさを感じて下さい。